どうも、理系です。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、自粛だ封鎖だ色々騒がれるようになり、でも、私は出勤せにゃならん。
なぜなら、自粛したら、薬の承認が遅れるから。
で、なんか、コロナ関連の騒動を見ていると、これを思い出すんですよね。
ひぐらしのなく頃に アウトブレイク
1か月くらい前にDNAワクチンの話をしたと思うのですが、そういえばそのあとどうなったのかなと気になったので、前回の記事の論文を参照してまとめてみた。
参考論文
A Review of SARS-CoV-2 and the Ongoing Clinical Trials
https://www.mdpi.com/1422-0067/21/7/2657/htm
遺伝子ベースのワクチン
mRNA-1273
このワクチンは、COVID-19の殻を構成するタンパク質のmRNAでできている。
「先生、日本語でOK?」と言われた気がするので、ちょっとかみ砕いて機序を説明する。
Delivering the Messenger: Advances in Technologies for Therapeutic mRNA Deliveryより
このワクチンはウイルスのタンパク質をコードしたmRNA(タンパク質の設計図)とそのmRNAを取り囲む膜からできている。
このワクチンを接種すると、ウイルスのタンパク質をコードしたmRNA(タンパク質の設計図)が体の中に入る。
人の体の中にはmRNAを読み取ってタンパク質を作る仕組みがあるので、その仕組みを利用して、ウイルスのタンパク質が体内で作られる。
で、このたんぱく質に対する抗体が作られて、免疫ができるってわけだ。
このワクチンのいい所は、病原体そのものを使わず、mRNAを使っているので、mRNAの選択次第で毒性を限りなくゼロに出来る点である。
(ウイルスの毒にならない部分のタンパク質の設計図を選べばOK。また、配列を工夫することにより、少ないmRNAで多くのタンパク質を作らせることが可能なので、抗原性も高い)
現在ヒトに対する安全性試験が行われている。
INO-4800
これはDNAワクチンですね。
DNAワクチンについては過去記事にて解説しているのでそっちを参照してくれ。
ChAdOx1 nCoV-19
このワクチンも、COVID-19の殻のタンパク質の設計図となる遺伝子を注入するというもの。
上二つと違うのは、COVID-19が細胞に侵入するときの足掛かりにするACE2という受容体の発現する細胞に選択的にウイルスDNAを侵入させるという点。
現在第Ⅰ/Ⅱ相試験が行われている。
これらの遺伝子ワクチンの難しい所は、投与量と経路の設定ですね。最新の形式のワクチンであるからこそ安全性やコスト面は優れているので、ぜひともうまくいって欲しい。
ちなみに、阪大が作っているCOVID-19ワクチンはこのタイプのワクチンです。
タンパク質ベースのワクチン
Stabilized Subunit Vaccines
COVID-19のエンベロープ膜の糖タンパク質を使用したワクチン。
抗原性が強いため、抗体が作られやすいが、そのままでは不安定なタンパク質なので、手を加えて安定化させてある。
分子クランプワクチンという技術を用いて、抗体産生を誘導し、さらに、37℃で二週間安定という高い安定性を実現した。
臨床試験はまだ行われていない。
Nanoparticle-Based Vaccines
このワクチンはウイルスの殻のタンパク質をベースとしたワクチンであるが、通常のワクチンとは異なり、鼻腔内あるいは口腔内にスプレーするタイプのワクチンである。
少し作用機序について解説する。
Nanoparticle-Based Vaccines Against Respiratory Virusesより引用
噴霧されたウイルスタンパクは粘膜に存在するM細胞あるいは粘膜細胞を介して体内に侵入する。
侵入したウイルスタンパク質は樹状細胞にとらえられ、最も近いリンパ節に運ばれる。
リンパ節では樹状細胞による抗原提示が行われ、免疫の司令官であるヘルパーT細胞が活性化する。
これにより、B細胞や細胞障害性T細胞が活性化し、免疫が作られる。
粘膜表面での免疫反応を刺激するだけでなく、全身反応を誘発することもあり、これは、全身症状を引き起こす呼吸器ウイルスから人間を守るナノ粒子ベースのワクチンになりうる可能性を示している。
今年の夏に第I相試験に入ることが期待されている。
その他の機構
Pathogen-Specific Artificial Antigen-Presenting Cells
COVID-19のタンパク質を発現する人工の抗原提示細胞を投与することにより、T細胞を刺激し、抗原特異性のT細胞を作ることにより、COVID-19の侵入に備えるというものである。
Artificial Antigen-Presenting Cells for Immunotherapiesより引用
この図のDCというのがワクチンとして投与する人工の抗原提示細胞で、黄緑の丸がウイルスタンパク質。DCという細胞がT細胞にくっつくと、ウイルスタンパク質特異的に活性化する。
抗体を作らせるというよりは、COVID-19に感染した細胞を攻撃する免疫細胞を作らせるということを目的にしている。
終わりに
なんか、病原体を弱らせてとかいうワクチンはもう古いんだなと思いましたね。
今はもうさらに安全性の高いワクチンが主流なんですね。
これらのワクチンが承認されるのは結構先になりますし、承認されたところで、おそらく優先順位的なものがあると思うので、いつ接種できるかもわかりませんが、ワクチンの世界は日々進化しており、新型コロナウイルスのワクチン上市に向けて一歩ずつ進んで行っていることがご理解いただけたら幸いです。